あずさ30号

 上野原の帰りに錦糸町に寄る約束をした。クルマではまるで時間が読めないので電車で出講することにしたのだが、さて、18時半に授業を終えて20時半に錦糸町に着くにはどうすればよいのだろう。
 あれこれ調べているうちに見つけたのが「あずさ30号」だった。この特急列車は、新宿の次の停車駅が錦糸町。つまり、東京駅を経由せずに千葉方面へ向かうという。
 大学から18時35分のバスで上野原駅に向かい、18時58分の普通電車に乗って八王子に着くのが19時23分。降りたホームに11分後に入線する特急に乗れば、20時26分に錦糸町に着く。自由席特急券は500円。ホームで買えるはずだと学生が教えてくれた。
 何度も使っている路線ではあるが、特急の座席から眺めると沿線の風景がまるで違う。単に気分の問題ではなく、進行方向を向いて座っていることと、座面が低いことから、本当に違って見えるのである。新宿を過ぎると、いよいよそのことがはっきりしてくる。市ヶ谷周辺のお濠、秋葉原電気街の看板、両国の旧駅舎のたたずまい。
 お茶の水駅の手前で、それまで快速の線路を走っていた特急は、緩行の線路へと入ってゆくポイントを通過する。それは、まるで秘密の扉を開けるようなドキドキ。飲んでも眠ってもよかったのだが、そうはいかない。電車に乗ることを目的とすることができるのは、少なくとも私にとっては幸福なことだ。
 さて、錦糸町。思いがけず誘っていただいた「忘年会」だったが、新たな知人を得ることもできて楽しかった。この街の夜は長く、しかも深い。