奇跡の生還

 高校以来の友人であるMi君と大塚。忘年会だから贅沢しようと、初めての「すっぽん」にチャレンジした。
 もっとプリプリしたものだと思っていたのだが、身は舌の上でホロホロと優しくほどける。生血のワイン割りに三種の肝酒と、そんなに精をつけてどうしますという品揃えにクラクラ。
 勢い余って、鍋の薬味をのどの奥に引っ掛けてしまったときには、本当に死ぬかと思った。咳をしようにも息が吸えず、吐くこともできず、ただ人間の声とは思えない音が出るばかり。人間、苦しいときには「苦しい」とことばにするものなのね。その一言を残してトイレに駆け込もうとしたとき、唇は真っ青になっていたとのこと。
 個室でひとり、もがくだけもがいて、奇跡の生還を果たしたとき、さっきまで見ていた世界が少し色鮮やかに目に映っていることに気付いた。生まれかわるとはこういうことか。
 すっぽんを食べに行って死なないでよかった。Mi君、心配かけてごめんなさい。生涯の思い出ができました。