東叡山の丘の上

 東京のソメイヨシノは満開だそうだ。この季節、花見と称して酔っぱらう人たちの姿がきまってテレビのニュースに映し出される。場所は上野公園。提灯の下で車座になる人たち、乾杯の風景、そして歌など歌って気分のよさそうな人たち。
 NNN系列で「今日の出来事」というニュースを放送していたころだから、大学生の頃だったと思う。その日もやはり上野公園で気持ちよさそうに歌っている人たちの様子が映し出された。僕は「この歌、知ってるな」と思い、テレビから流れてくる歌に合わせて何の気なしに口ずさみ始めた。歌の終わらぬうちにニュースは終了。続きを歌い続ける僕。最後のところまで来て驚いた。

  東叡山の丘の上
  そそりて立つは我が母校

 そう、それは藤村作作詩、田村虎蔵作曲の「東京都立上野高等学校校歌」だ。知っているわけだ。というより知らないはずがない。
 僕らはよく校歌を歌った。在学中はもちろん、卒業して酒を飲んでも法に触れなくなってからも。特に、飲めば必ず歌ったものだった。手拍子で歌えるこの歌は、花見の宴にもぴったりだ。酔っぱらって校歌を歌うのは不謹慎かも知れないが、酔ったら歌いたくなる校歌というのもなかなか貴重な存在だと思う。この週末も、上野の山を歩いたら懐かしい歌声が聞こえてくるのだろうか。
 同窓生でも知っている人はほとんどいないと思うが、上野高校の定時制課程は全日制課程とは違う独自の校歌を持っている*1

  夜攻学の意気たけく
  生き行く力示すかな


  明星燦たり空高く
  遠き前途を護るらん

 上野高校の定時制は、もともとは第二東京市立中学校の初代校長だった高藤太一郎先生が私財を投じて開いたものなのだと聞いたことがある。この歌詞を見ていると、さまざまの背景を持ち上野の山の「夜学」に集ってきた若者たちの姿が浮かんでくるようだ。
 長い歴史を持つ上野高校の定時制だが、来年の3月をもって「閉課程*2」されるとのこと。変わるもの、変わらぬもの、上野の山の桜はずっと見ていたのだなあ。

*1:ちなみに、すでになくなってしまった通信制課程は全日制課程と校歌を共有していた。

*2:上野高校のウェブサイトにあることばだが、こんなことばって本当にあるのか。