ロケット
映画『ターミナル』の話。フード・サービスに勤務するエンリケという青年は、入国係官のトーレスという女性に思いを寄せている。許可のスタンプなどもらえるはずもないのに入国審査の部屋に毎日出向いているビクターならば、彼女のことを聞き出し、自分の思いを伝えてくれるのではないか。そう思ったエンリケは、食べ物を提供すると言ってビクターに近付き、自分の望む「取り引き」を成立させたのだった。
ビクターがトーレスの趣味を聞き出そうとする場面は、以下のように始まる。
Victor: Officer Torres, you like the films? Movies?
Torres: Not so much.
Victor: The Rockettes?
Torres: Can't afford it.
映画はそれほど好きではないという彼女に、ビクターは「では、ロケットは」とたずねる。字幕には「ミュージカルは」とあるのだが、いったい何のことだろう。
調べればすぐにわかる。ロケッツ(The Rockettes)とは、ニューヨークのラジオシティ・ミュージックホールを拠点とするダンスチームのことだ。1925年にセントルイスで産声を上げたというから、相当な歴史を刻んできた名門のチームと言える。ビクターは英語を学ぶのに観光ガイドの本を使っていたから、ニューヨークのエンターテインメントにも詳しいわけだ。妙なところでつじつまの合うところがおもしろい。
YouTube などでこのチームの演じている様子を見ると、日本にも同様の歌劇団のあることが思い出される。ラインダンスに代表される集団演舞の美しさに加え、ステージ後方の巨大な階段と、さまざまのことがよく似ているのだ。そう、それは宝塚。
そう言えば、宝塚のラインダンスは「ロケット」と呼ばれるが、これってニューヨークのロケッツと関係があるのだろうか。調べてみたら、やはりその通り。宝塚はずいぶん見てきたけれど、この歳になって初めて知った。