かもめの玉子

 高尾での始業前、学生から思いがけぬ質問を受け少々面食らう。私なら答えられると思ったのだろうか。ここにはとても書けぬような内容だったが、とりあえず答えてしまう自分が少し悲しく誇らしい。
 帰途、久しぶりに寄ったパーキングエリアにの売店に東北地方を支援するコーナーがあった。お菓子などさまざまな食品が並んでいたが、その中に「かもめの玉子」を見つけ、うれしくなって買ってしまった。
 このお菓子を作っている「さいとう製菓」は岩手県大船渡市にある。このたびの津波で、本社ビルは波にのまれ外壁しか残らなかった。直営の5店舗もすべて被災。工場にも壁の一部がはがれるなどの被害があった。ただ、高台にあったため生産ラインは守られたのだという。震災直後は多くの従業員に自宅待機させざるを得なかったが、4月の初旬に呼び戻して生産を再開。その工場から届けられたのが、目の前にある「かもめの玉子」なのである。
 宮古・釜石・気仙沼。東北地方太平洋沿岸の港町を「港町ブルース」ではこのように3つ並べるが、岩手の人にとっては、宮古・釜石・大船渡。昔、戸田信子さんがそう言っていた。その大船渡で生まれたこのお菓子は、いつだって口にできるという親しみやすさを備えていた。その親しみやすさがこの先いつまでも続くようにと願う。