digital archive

 高尾での昼食の時間、にわかに科研費が話題になった。100万円とか300万円とか、理系の人が聞いたら何かの間違いでしょうとびっくりするような「桁違い」の額をめぐる攻防戦を聞いた。
 研究費が出るとしたら何が欲しいかという話になり、迷わず「レーザーターンテーブル」の名を出した。これは針を使わぬレコードプレーヤ。SP盤からソノシートまで、盤面の黒いものであればあらゆるレコードを再生することができ、反っていても傷があっても、割れていたとしても大丈夫という優れものだ。さいたま市にある小さな会社が開発したもので、価格は軽く100万円を超える。
 これを買って、自分の持っている昔の『基礎英語』や『続基礎英語』のソノシートを活用して研究の資料にできないだろうかとおっしゃったのは音声学のW先生。この方の問題意識は音声学の中でも教育の方に大きく傾いていて、私のような者とも実に馬が合う。教科書や雑誌等の画像は次々にアーカイブ化されているが、音声資料はほとんどないわけで、これはもしかするとよいテーマになるかも知れない。
 そう言えば、ある団体の活動を一所懸命にしていた頃、何でもいいから1人1つテーマを設定し科研費に応募せよとのお達しがあり、無理矢理ひねり出したのは、発話を促す合図として活用するために世の中のあらゆるものの音をデータベース化しアーカイブ化するというものだった。クルマの絵を見て"Car!"と言うかわりに、クルマの音を聞いて"Car!"と言えるようにしようというのである。科研費を請求するテーマとしては箸にも棒にもかからぬものだったのだが、現代の目線で「魔法の粉」を振りかければ大きく化けるかも知れない。
 雀百まで踊り忘れず。そして、まさに類は友を呼ぶ。音のデジタルアーカイブ。著作権の問題などクリアせねばならぬことも多いが、なんだかちょっとおもしろくなってきた。