ふーん

 モンゴル語なんぞを勉強している頃、それを知った人はたいてい私に向かってこう言った。
「何かしゃべってみて」
 この願いに応えるのはなかなかに困難である。私たちが「日本語で何かしゃべってみて」と言われたらどうしたらよいか困るのと一緒だ。
「『こんにちは』ってなんて言うの」
「『ありがとう』ってどう言うの」
 このように聞いてくる人も多かった。こちらは対応しやすいので、日本語の「こんにちは」にあたるモンゴル語は「サインバイノー」と言うのだと答える。「ありがとう」は「バヤルララー」と言うのだと答える。
 すると、たいがいの人はこう言った。
「ふーん」
 本当は興味などないのにお愛想でたずねてくれていたのだとわかる瞬間である。
「え?なになに?もう一回言ってよ」
 こんなふうに言って、何度も口にしようとしてくれる人も時にはいた。こういう人はいい人。そして、この先役に立つことなどないとわかっていても、とりあえず一度は言ってみようと思う点において、外国語に触れることの意義や意味をわかっている人だったと思う。
 しきりに「イヤイライケレ」と繰り返してみる学生たちを見ていて、この人たちは「いい人」だと思った。