1年1年を積み重ねる

 ごくごく個人的なことだが、あることをしなくなって丸1年が経った。誓いを立てたわけではなく、結果としてそうなったに過ぎないのだが、振り返って思えば1年などあっという間だった。
 広島の友人から、旧広島市民球場を守ろうという人々が解体の禁止を求める仮処分を広島地裁に申し立てたとの情報をもらった。調べてみると、申し立ての根拠として求めたのは憲法13条の「幸福追求権」とのこと。戦後復興や平和のシンボルであり市民のこころのよりどころとなっている旧広島市民球場が取り壊されれば憲法で保障されている幸福追求権が侵害されるという主張である。
 法律のことはよくわからないのだが、明石小学校の問題でも、区長が校舎に文化財としての価値を認めた上でこれを壊せば文化財保護法に触れるのではないかという議論もあるようだ。また、民法上の「善良な管理者の注意義務(善管注意義務)」を欠く行為に当たるのではないかと主張する人もいるようで、いずれもなかなかに興味深い。
 今日のNHKのニュースでは、明治から昭和初期にかけて現在の東京23区内に建設された近代建築物のうち「文化的価値がある」と評価されていたものの4分の3がこの30年で壊されてしまったことを建築家や研究者の調査が明らかにしたと報じていた。そう言えばと思い当たる建物がいくつもある。
 東京の街の歴史は「スクラップアンドビルド」の歴史なのであって、竣工から100年も経たぬ建物に歴史的意義や文化的価値を求めてはならないなどと嘯く向きもあるようだが、ちょっと素直にはうなずけない議論だ。世界遺産に指定されたような大昔の建物にだって、30年目や60年目があった。こういう当たり前の事実の積み重ねの中に、本当のことを見つけたいと思う。