手帳

 高尾での朝のひととき、駐車場にクルマを停めてラジオなど聴いて過ごす。そこはエコ・フレンドリーな私だから(嘘)、エンジンは止めてクルマに積んである携帯ラジオを使う(これはホント)。
 火曜日は8時からの「話題のアンテナ:日本全国8時です」に荒川洋治さんが出演。今日の話題は「手帳」だったが、その中で宇野千代さんのエッセイを引いていた。およそこんな話だった(と思う)。
 宇野さんがあるお医者さんに知人を診てもらおうと頼んだとき、そのお医者さんの手帳にびっしりと予定が書き込まれているのが見えた。そんなに忙しい方に頼むのは申し訳ないと思ってそう言うと、そのお医者さんは「予定を立てておくと忙しくないものだ」と答えたという。それは、新幹線が一日に何本も出ているのに、絶対にぶつからないのと一緒だというのである。その一件があって以来、宇野さんが手帳を手放すことはなかったという。
 なるほど。論文を書くなどといってバタバタするのは、きちんと予定を立てていないからなのだなあ。まったく反省することしきり。けれど、東京を西へ東へと動き回り、日によっては3か所を巡って仕事をするようなことがあっても、実は気の毒がっていただくほどの忙しさを感じてはいない自分もここにいたりする。
 気付いていたはずのことがことばにできていなかったのか。洞察するということ。表現するということ。乗り越えなければならない壁の存在を感じる。