たまごの黄身

 教職員食堂のAランチは「すき焼き風煮」でした。入口に置かれている見本を見ると、牛肉、玉ねぎ、豆腐などを煮たものに春菊と温泉たまごが添えられていました。この食堂のメニューとしてはかなりのクオリティの高さと思い、迷わずこれをいただくことにしました。
 席に着いて待っていると、程なく私の分が運ばれてきました。美味しそうな匂い。でも、私はそこで「ムッ」としてしまいました。温泉たまごの黄身がつぶれていたのです。言おうか言うまいか。言ったところで他の人に回されてしまうだけだろうし、捨てられてしまうとしたらもったいない。だいたい、食べるときには自分でつぶすのだから、まあいいか。結局、何も言わずにいただくことにしました。
 以前、テレビのある番組で、立ち食いそば屋で「月見そば」のたまごの黄身がつぶれた状態で供されたら客はどんな反応を示すかを見るという、そんな「実験」をしているのを見たことを思い出しました。取り替えろとすぐに言う人、しばらくつぶれた黄身を見つめた後で仕方なく食べ始める人、まったく気にせずにすぐ箸をつける人、実にさまざまの人がいました。
 私はと言えば、黙って食べることにしたというのに、やっぱりモヤモヤした気分を消すことはできず、結局はこういうところに書きつけるという、ああ、まったくそういう人間なのです。
 でもね。いったん別の器に割り入れて確認してから料理に添えるとか、殻のまま出して食べる本人に割らせるとか、いろいろな工夫というものがあったのではないかとは思います。そして、月見そばの生たまごならともかく、温泉たまごの黄身をどうやってつぶしてしまったのか、そのことも気になって仕方がないのです。