香ばしい納豆

 舟納豆(ふななっとう)は茨城県は奥久慈の名産品である。亡父のお気に入りだったこの納豆を、今回のお寺の旅行の途中で運よく買い求めることができた。久しぶりに食卓に上がったこの納豆は、なるほどやっぱり美味である。
 以前、ある人たちにこの納豆をお土産に持って行ったら、「焦げ臭い」「もうお土産にはしないで」と口を揃えて言われ、いささか傷ついたことがある。今回味わってみてあらためて思ったのは、この納豆は「焦げ臭い」のではなく「香ばしい」のだということだ。
 自分(たち)の口に合わないからといって、よくもまあひどいことを言ってくれたものだ。こういう無礼な人々と生涯をともにすることを取りやめて本当によかったと思う。そして、どんなものでも食べてみようという生き方をしてきた自分を、ちょっとだけ賞めてやりたいと思う。
 舟納豆と故人の名誉のためにもう一度言っておく。この納豆は焦げ臭いのではない。香ばしいのである。さまざまな納豆のある中で、この香ばしさは舟納豆の持つ愛されるべき個性である。