記憶の陰にぽつりと座り

 帰り道のラジオがあまりにうっとうしいので、年代もののiPodをカーオーディオにつないで聴いてみた。70年代の歌謡曲も80年代のアイドルポップスも大量に入ってはいるが、今日は珍しく『マズルカ(Mazurkas)』にした。ピアノ曲はめったに聴かないのだがショパン(Frédéric François Chopin)の『マズルカ』だけは別で、音源もルービンシュタイン(Artur Rubinstein)、アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy)、ビレット(İdil Biret)と3種類だけだが持っている。批評する耳を持っているとは思っていないが、聴き比べてみていちばん好きなのはやっぱりルービンシュタイン。そして、数ある『マズルカ』の中でも、いちばんのお気に入りは「ハ長調Op.67-3」だ。
 かつて、ニッポン放送に「新日鉄コンサート」という番組があった。調べてみると、同局が放送を始めた翌年の1955年から50年間にわたって放送されていたというから、相当の長寿番組である。ラジオを聴き始めた頃、日曜の夜にはよくこの放送を聴いていたのだが、番組の最初と最後には『マズルカ』の「ハ長調Op.67-3」がテーマ曲として流されていた。マズルカの44番とも呼ばれ、バレエ音楽の『レ・シルフィード(Les Sylphides)』にも取り入れられているから有名な曲ではある。私と『マズルカ』との出会いはこの番組で、これがきっかけでいわゆる「クラシック」も聴くようになった。その意味では、富士製鐵から新日本製鐵へと引き継がれた文化への投資には大きな意味があったということだろうか。
 まあ、ショパンが好きだの何だのと言っても、所詮はラジオの思い出あたりに落ち着くという、その程度の話である。