瀬戸際の魔術師(2)

 だいたいがギリギリにならないと仕事のできない質なのだが、今日も今日とて滑り込むようにテストやら授業用のプリントやらを仕上げる。
 今日はうまく行ったけれど、大学の3年のときだったか、どうにかなると思っていたゼミの当番の準備が終わらず、頭をかいたり汗をかいたりしながら1時間半を過ごしたときは本当に辛かった。そのとき、「どうにかなるではどうにもならぬ」とわかったはずだったのだが、実際、わかったくらいではどうにもならぬわけだな。さてさて、瀬戸際の魔術師などとうそぶいていられるのもいつまでか。
 うそぶくと言えば、意味は違うがこの歌。「野尻湖の歌」の通称を持つ旧制東京高等学校水泳部の歌である。旧制東高の尋常科に源流を求めることのできる東京大学教育学部附属中等教育学校の水泳部に、現在も歌い継がれている。

   水の精の夢破り 鐘に明けゆく湖の
   岸邊に五色の波打ちて 霧はも深き*野尻湖の
   この黎明にうそぶけば 若き血潮の湧き返る


   山の精の晝の夢 水煙陽をばさへぎりて
   水面に七色虹を生む 千古の湖にうそぶけば
   山は應へて空遠く 若人の夢ぞかけりゆく


   今天地の氣は眠り 鐘の音低き**湖の
   水に赤き浄火は燃えて*** 芙蓉の湖は黄昏れぬ****
   黒姫山頂月白く 吾等が意氣ぞいや高し


  *「深し」とも  **「冴ゆる」とも
  ***「水は赤き浄火に燃えて」とも  ****「芙蓉の湖ぞ黄昏るる」とも

 この歌を思い出したのは、水泳の指導者でもあったかつての同僚から久しぶりの電話をもらい、思いがけぬ依頼を受けたこともあって。詳しいことは、2か月半後くらいのこの日記に記されるはず。