歴史を見つめる目

 国立で2コマを終えて、お寺へ。前々坊守の一周忌法要である。法話をうかがい、亡き人を縁として生きるということを考え直す。「みなさんにお寺に来てもらうなんてわるいよ」と家族だけで父の法事を勤めようとする家族に抗いきれなかった自分を悔やんでみたりする。
 お寺の役員を務めていらっしゃるK氏は、上野高校の大先輩である。終戦の年、旧制中学時代の母校に入学されたが、大空襲後の東京で暮らすことを避けてすぐに長野の中学校に転出、戦後、新制高校の3期生として戻られたのだそうだ。
 上野高校は創立以来、ネクタイにジャケットというモダンな制服だったということは知っていたが、制服をあつらえて入学式に臨むことができたのは、お兄さんが卒業生だったという人たちを含むわずかの人数だったそうだ。ご本人も憧れのまなざしでその姿を眺めるだけだったという。戦後、上野の校舎に戻られたあと、軍によって屋内体操場に隠匿されていた物資が放出され、くじ引きで当ったのはブカブカの編み上げの軍靴だった。亀有から常磐線で日暮里へ。そのブカブカの靴で日暮里駅から母校まで走るのが日課だったそうだ。
 ものの無かった時代のことを目にうっすらと涙を浮かべて話される大先輩を見ていて、公式に残された資料・史料の裏にひとりひとりの歴史があるのだということを、今さらながら教えられた思いがした。