助走の適正な長さとは

 昨日の日記に、懐かしい人からコメントをもらった。僕に「りばそん」という名前を付けてくれたのは、この卒業期の1人である。名前も覚えているが、個人情報保護の観点から控えよう。
 彼女たちがまだ中学生だったある日のこと、その生徒は教員室にいた僕のところへやって来て、「かわむら」という名前を英語に訳して呼ぼうとした。
「ハーイ、ミスターリバー…、リバー…、リバー…。」
なかなか「ビレッジ」が出て来ない。一瞬の沈黙ののち、彼女は「むら」を表す漢字を音読みすることで代替しようとした。
「リバー、ソン!」
「なんだ、それ」と言った僕だったが、繰り返してみると響きは悪くない。それに river + son とすれば「川の子ども」という意味になる。荒川の流れの近くで生まれ育った自分にはなんともふさわしい名前のように思われてきた。さらに、当時はメールアカウントに8バイトの制限をかけているところがまだまだあった頃だったので、riverson という8文字は実に便利だ。それで、この名前は正式に僕のニックネームに採用されたのである。
 なお、この riverson という語は、最初の音節にかなり強めの強勢をおいて発音するのが正しい。ひらがなで「りばそん」と表記した場合も同様の意識で発音することが望まれる。


 僕が歌った「ミスチル」とは「星になれたら」という曲である。高三の担任を持っていたとき、大学受験を目前に控えた壮行会の場で一度歌い、アンコールに応えるかたちで卒業式のあとの謝恩会でもマイクを握った。壮行会に出演するにはオーディションを受けなければならなかったが、演奏を引き受けてくれた一つ下の代の生徒たちと一緒にきちんと受けた。教員だからといって特別扱いは一切なく、落ちたらどうしようとずいぶん緊張したものだ。
 「星になれたら」との出会いを語り始めたら小説の1本や2本はすぐに書けてしまうので今日はやめておくが、歌詞の次の部分に励まされたということばに触れて僕も好きになったのだった。

  長く助走をとった方が
  より遠くに 飛べるって聞いた
          「星になれたら」桜井和寿(『Kind of Love』所収)

 このまま助走ばかりで終わってしまうのではないかと不安になることもあるが、いつかきちんと飛び上がれることを願いながら、ジタバタ、オロオロと暮らし続ける日々である。