CROWNのRをLにせよとは我が恩師のことば

 吉祥寺の高校で2コマ。帰りに最近お気に入りの下石神井のそば屋。
 音を立ててそばを食べることが理由で結婚してもらえないという人の話がスポーツ新聞の紙面を賑わしているようだが*1、そばってのは音を立てて食べるもんだ。おっと、そばというものは音を立てて食べるものだ。
 ふと思い出すことがあって、三省堂発行の中学校用英語教科書『クラウン(New Crown English Series)』の1978(昭和53)年版を確かめてみた。Book 3 の Lesson 3: Mr. Carpenter In Japan には横浜在住のオーストラリア人医師 Mr. Carpenter のスピーチとして、以下のような記述がある。

 I am interested in the Japanese way of life. I am learning many important things from my stay here.
 For example, making a noise at the table is very bad in my country. In Japan, too, it is usually not polite. But when you eat noodles, you can make a noise. Why is it all right in Japan? Why is making a noise at the table bad in my counrty? I have long wanted to know the reason. Do you have any idea?
 This is my answer. Every culture has its own rules and values.

 『クラウン』は1981(昭和56)年に New Edition、1984(昭和59)年に Revised Edition を出すが、いずれにもこの記述はそのまま引き継がれた。1987(昭和62)年には大幅な改訂がなされるが、この課は残されて以下のような記述に変更され、これが1990(平成2)年の小改訂版まで継続する。

 You must not make a noise at table. That is very impolite in Australia. In Japan, too, it is usually not polite. But when you eat noodles, you can make a noise.
 Why can you do that in Japan? I have not lived here long enough, so I am not sure. But this is my answer. Every culture has its own rules and values.

 教科書に載っているから正しいなどと言うつもりは毛頭ないが、そばは音を立てて食べてもかまわないということは英語の教科書にも載っていたのだということは言っておこう。Oさん(これでは匿名にならないな)がどのような文化的背景をお持ちか詳しくは存じ上げないが、おそらくは音を立ててそばを食べる習慣をお持ちではないのだろうと想像する。しかし、Hというお医者さんが音を立ててそばを食べることに何の問題があるというのだろう。H氏をかばい立てするつもりもないが、そばを食べるときの音がどうしてそんなに嫌なのかOさんに聞いてみたいような気もする。
 まあ、「箸の上げ下ろし」が気になるというときには、他にもっと大きな理由があるものだ。H氏におかれては、スポーツ紙が報じる「反省したそばの食べ方」でも「サラダそば」でも、何でも願いのままにやっていただければと思う。
 教科書の話に戻ろう。あらためて読み返すと、昔の教科書はなかなか骨がある。昔と言っても、自分が勉強した教科書だから、それほど古いものではないのだが。
 英語そのものは1987年版の方が洗練されたと言えるだろうか。at the table よりも at table の方が、Why is it all right in Japan? よりも Why can you do that in Japan? の方がよさそうだ。ただ、全体として文章の勢いは削がれてしまったようにも感じられる。しかし「言うは易し」である。中学校用の英語教科書には多くの制約があるということを、この教科書の代表著者の一人であった恩師はよく話してくれた。限られた語句と文法とで内容のある教科書を作り出そうとした労苦のあとを、どのページからも読み取りたい。
 僕はこの教科書の1978年版で3年間勉強した。Book 1 から Book 3 まで3年間継続して使うことができたわけで、ある年から急に教科書が変わるという経験をせずにすんだという点でたいへん幸運な学年だったと言えるだろう。語学の教科書を coursebook と認識するならば、3冊なら3冊を続けて使わなければ意味がないはずなのだが、今の制度のもとではそれがかなわない。このことについては、よほど大きなことがない限り、明日書くことにしよう。

*1:http://www.nikkansports.com/entertainment/p-et-tp0-20080125-311667.html