教師が晩酌するとき

 武蔵境の大学は留学生別科・学部ともに今日が後期末試験。最後の出講日となる。経営学部2年のクラスは、人なつっこく折り目正しい学生が多く、楽しい1年だった。非常勤で出講していると学生たちと深く関わることはほとんどないのだが、このクラスにはどこか思い出深いものが残っている。
 最初の授業で出席を取るとき、ある80年代アイドルと同姓同名の女子学生を見つけ、たぶん「おお」とか「ほほう」と言ってしまったのだろう。その学生に「先生もその世代ですか」と言われたときはなんとも照れくさかったが、その学生にしてみれば同じ反応を示す教員に何人もあって来たのだろうと思い少し申し訳ない思いがした。
 マイナーと言っては失礼だろうが、あるスポーツのクラブに所属している男子学生が2人いて、「公欠願」を持って来るたびになんともすまなそうな顔をしていた。メジャーでないものが大好きな自分、そのスポーツの名前の懐かしい響きとともにずっと記憶に残っている。
 ここに書くことにはさすがにためらいを覚えるが、かつて聞いたことのなかった理由で早退したいと言ってきた女子学生には本当に驚いた。けれど、同時になんと正直なのだろうと少し微笑ましくもあった。
 いちばん申し訳なく思うのは、絶対に出すまいと決めていた休講を出してしまった昨年の最後の授業のことだ。16時10分から17時40分までの授業なので、このコマだけのために来る学生にはずいぶん迷惑なことだったろうと思う。あらためてお詫びしたい。その日は、ノロだか何だかわからないがウイルスにやられてしまい、下痢と嘔吐に加え38℃の熱に苦しんでいた。一晩で4キロも落とす経験をして、人間、身体が資本だと実感した。このクラスのことと合わせて、ずっと忘れないと思う。
 英語のできる人たちだったので、もう少し手応えのある、あるいはもうすこし深みのある教材を選べばよかったと反省しているが、先日のアンケートでは僕の文法の解説について評価してくれた学生が何人もいて、ありがたく思っている。昨年の暮れ近くだったか、そのことを直接言ってくれた学生もいて、ちょうど別のことでへこんでいた時期だったこともあり、ものすごくうれしかった。感謝の気持ちは伝えたつもりだが、この際もう一度。
 4月からは出講の予定がなくキャンパスで会うこともないのはさびしいが、そのアンケートで「説明がわかりやすい」という項目に全員が「5」の評価をくれたことは、勲章だと思って今後も精進して行きたい。お別れにあたり、昔の先生だったら「ちょっと行きますか」とかなんとか言って酒かコーヒーに誘ったのだろうが、残念ながら時代がそうすることを許さない。けれど、気分だけはそういうものを引きずって帰宅した。珍しく晩酌をしてしまったのはそういう訳だ。