どちら負けても釈迦の恥

 西落合での家庭教師の帰りはNHKラジオ第1放送にチューニングを合わせる。月曜の21時と言えば、おなじみ「真打ち競演」の時間である。
 元NHKアナウンサーで現在は某高校で英語の先生をされているH氏が、在局中に一度この番組を担当されたことがあるそうで、酔っぱらうとそのときのアナウンスメントをすべて再現してくれたものだ。Hさんはお元気だろうか。そうそう、キダ・タローのCDを返してもらわなきゃ。
 今日の放送は広島県の坂町から。主任をつとめるのは古今亭菊丸師だった。菊丸さんは呉の出身なのだとか。調べたら、修道大学を出ておられますよ。圓菊師に入門したのは1975(昭和50)年とのことだ。
 菊丸さんは陽気で華のある噺家さんで、圓菊一門の中でも特に好きな人。今日の演目は「ちりとてちん」だったが、「愛宕山」や「幇間腹」など、幇間ものもよく似合う。
 テレビやラジオではめったにかからない噺だが、この人の演じる「宗論」は絶品だ。真宗の家に生まれたというのにキリスト教に走ってしまった倅、父親を説得しようと牧師の口まねで聖書を語り始め、そのうち賛美歌の「いつくしみ深き」を歌いはじめる。菊丸さんのオリジナルなのだろうか、いつの間にかその讃美歌が「里の秋」に転じてしまうのだが、このあたりの演じぶりは見事の一言。
 この噺、「宗論はどちら負けても釈迦の恥」などという川柳が持ち出されて親子げんかは仲裁されるのだが、相手はキリスト教なのだからちょいと無理がある。門徒としては、どうしてもお父さんに肩入れしてしまうけれどね。