東京は雪

 嫌いなのは、コインパーキングの精算機のがっちり縁取られたボタンだ。突起物なのだから押せばよいと単純に思いがちだが、その突起物の外周は壁のようになっていて、中だけを押し込まねばならない。
 うっかり狙いを外して何度痛い思いをしたことか。その外壁に爪をぶつけ、その外壁を爪と指の隙間に食い込ませたりするのである。
 苦手なのは、コインパーキングの精算機の釣り銭を受け取るための金属製の口だ。剥き出しの金属は触れれば冷たく、縁に指を当ててしまえば鋭い痛みを誘う。
 釣り銭がこぼれるのを防ぐためか、見た目からは想像のできない重さを持った透明な樹脂製の蓋がついており、これを持ち上げなければ指を差し入れることができない。その一連の動作のうちに、指先は冷たさと痛さを知るのである。
 夜。私の他に誰もいない西落合のコインパーキングの精算機の前で、指先の痛みに耐え、肩に掛けた鞄と手に持った傘を落とさぬようにと心を配りながら、小さいけれどあたたかい、本物の優しさについて考える。東京は雪。