守秘義務

 思いがけず新しい仕事をもらうことになった。あれこれ制約があるうえに守秘義務をともなうので、ここにつまびらかにすることはできないが、ふざけるという意味ではなく「おもしろがって」進めることが肝心かと思う。
 その仕事の打ち合わせのあと、久々に地下鉄南北線に乗ることになった。ホームに降りると暑い。13時頃だったろうか。とにかく暑いのだ。昨日発動された「電力使用制限令」の影響で、東京メトロでは12時から15時までは駅構内の冷房を止めているとのこと。そのうえ、南北線のホームはホームドアがフルスクリーンタイプになっている。つまりホームがガラス張りの温室のような状態になっていて、トンネルを抜ける空気も吹き込んで来ることがないのだ。ホームに設置された寒暖計によれば、気温が30℃で湿度は70%。何かが狂っているとしか言いようがない。
 あれこれの用を済ませて地元に戻る頃には、ずいぶんよい時間になってしまった。この際、千住のいつもの串煮込みに寄ってみることにする。
 カウンターの左隣に座ったのは、あの地震のとき福島第一原発にいたという人だった。停止中の原子炉建屋の耐震補強のため、杭打ちの作業をしていたという。乗って行った車で帰ることができなくなり、免許証から何からすべてを車の中に置き、車ごと原発の敷地に置いたまま自衛隊のヘリに助けられて帰ってきたのだという。免許証は自動車のものばかりではなく重機用のものも数種。再発行の手数料だけで何万円にもなったとのこと。補助もないとは気の毒だというのがカウンターの総意だった。
 色眼鏡をかけた粋な着流し姿が登場。一昨年の正月に初めて会って弾いてもらった流しのおじさんだった。しばらく入院されていたそうで、今日は快気祝いにギターを持たず飲みに来られたとのこと。最近はもっぱら荒木町を流しているとの話に、坊主バーの名前を出してみたら、あそこでも商売させてもらったことがありますよと。あそこの先生とはよく電車が一緒になりますが、よくおモテになりますねとも。先生とはT師のことだ。世の中は狭い。