春の道標

 高尾での授業を終え、夕刻、座・高円寺へ。いつものK君に誘ってもらい芝居を観た。今日の演目は、虚構の劇団第6回公演「アンダー・ザ・ロウズ」。作・演出:鴻上尚史。
 この劇団の芝居を観るのは2回目だが、確実に力を付けていると思う。一人ひとりのキャラクターは見事なまでにくっきりしてきたが、まったく嫌味なところがなく好感が持てる。噂に聞くところではあまり評判がよろしくないそうなのだが、鴻上さんの昔の芝居や演者と比べてしまっては、目の前の公演を観ていることにならないのではないだろうか。
 芝居のあとは遅くまで話し込む。K君は最近古井由吉を読んでいるそうだが、その流れで「内向の世代」の話になった。黒井千次もそのひとりに分類される作家だが、私たちはどういうわけだかこの人の『春の道標』に覚えがあることに気がついた。
 なぜだろうと考えるうち、この作品が私たちの受けた共通一次試験で出題されたことを思い出した。そうだ。試験のあと、登場人物の棗は私たちの話題を独占してしまったのであった。話の続きが気になってどうにもたまらなくなり、文庫本を買って読んだのだったろうか。
 同じ年に生まれ同じ経験をした者だけが共有することのできる奇妙な思い出。それぞれがそれぞれに過ごしていた多感な日々のことを思うと、少しばかりくすぐったい。