おかちん

 フジテレビの「ペケ×ポン」という番組は好きでよく見るのだけれど、前から言いたいことが2つばかりあるのだ。嫌なら見なければよいとは思うのだが、でも嫌なわけではなく、ぶつぶつ言いながら見るのもそれなりにおもしろいのである。
 で、まずはペケポン川柳。川柳は「なぞかけ」とは違うのだから、2つの意味を持つことばを掛け合わせる必要などまったくない。それなのに、毎回決まってことばの掛け合わせが答えの中心となるような問題ばかり出題されるのだ。これは川柳というものを誤解させるのではないかしら。現に、この番組を離れたところで「普通の」川柳を読んだり聞いたりしたとき、ことばの掛け合わせを探している自分がいたりするのである。
 次にMAX敬語。社長が部下である新入社員のことばづかいに敬語の誤りを見つけて激怒するというコント仕立てのクイズだが、ここで正解として示される敬語に首をかしげることが多い。今日の問題にも次のようなものがあった。
 社長が餅をつくぞと張り切っているのを見て、新入社員が「美味しいお餅、期待しています」と言う。社長はその「お餅」という言い方がなっていないと言って激怒するのだが、そこで示された正解は「お餅」を「おかちん」に替えよというものだった。
 おかちんは、いわゆる「女房ことば」である。出題者兼解説者として番組に出ていた「言語学者」は、餅がすぐにカチカチに固くなることを「おかちん」の語源としていたが、餅を意味する「搗飯(かちいい)」という古い言い方が転じたとの説もあるようだ。
 女房ことばには暮らしの中に根付いているものも多い。おかか、おかず、おから、おこうこ、おこわ、おじや、おでん、おなか、おなら、おにぎり、おはぎ、おひやなどなど。私も古い方だから、おめもじとかくろもじとか言ってびっくりされることもあるし、幼い頃の我が家では味噌汁のことをおつけと呼んだりもしていた。
 しかし、女房ことばであるからと言って、現代に通用する最上敬語と認めてしまうというのはどうだろう。今の世の中で「おかちん」と言っても通じないことの方が多いのではないだろうか。それに「お餅」を「おかちん」と置き換えたところで、この場面にふさわしい表現とはとても思えない。社長に対して「美味しい」餅を「期待」すると言ってしまう態度の方こそが問題ではないだろうか。
 よく「役者バカ」と「バカ役者」と2つのことばを並べて自虐的に笑いを取る演劇人がいるが、この「役」の字を「学」に替えて笑えるだろうか。この番組に出ている「学者」についても、そんなことを思う。専門家は専門家であるがゆえに自分でなった縄に縛られやすく、自分で掘った穴に落ちやすいのである。
 お釈迦様とはまるで関係のないことを考えながら、花まつりの一日を終える。