Bというラーメン屋

 近所にひどく風紀の悪いラーメン屋がある。遅い昼食をひとりで取ろうかなどというとき、3年に1度くらい魔が差したように行ってみたくなるなるのだが、今日がちょうどその日だった。
 店の入口は自動ドアの電源を切ってるらしく「手で開けてください」の貼り紙がある。そのドアを引いて中に入ると、調理場をL字型に囲むようにカウンターがつくられている。まだ日も高いというのに、赤い顔をした人たちが数名。ああ、よしときゃよかったと思いながら席に着き、うっかり「ビール」と言ってしまう自分。ああ、なんだかダメな感じ。でも、こういうところでは瓶ビールを注文するのが最も安全なのであって、ギリギリのところでおかしな計算をしている自分に気付く。
 この店には常連しか来ないらしく、ひとりふたりと入ってくる人たちが先客と親しげに話している。政治や経済や宗教や医療のことなど、およそ不正確な情報が乱れ飛んでいて、失礼ながらと正してみたい衝動に駆られもするけれど、面倒はゴメンだと思い直す。場末の安い呑み屋に行けばもっとひどい状況もあるのだが、この店のどちらにしても中途半端な感じが、そこに身をまかすことのできない不安定な気分を増幅する。
 ああ、早く帰らなければ。私にはやらなければならないことがある。ワンタン麺を食べきって帰宅すれば、わずか30分のできごとだったが、数時間にも感じられたことだった。この店を再訪することはあるだろうか。3年後、また魔が差したように訪れるのだろうか。