それは、春色のエアメール

 新宿駅南口に正午。会務を片付けねばとの思いもあるが、むしろ積極的に気分を変えたいという気持ちもあり、今日のNm君との約束はありがたかった。わずかに1年だけ出講した大学の、しかも学部の授業としてはわずかに1コマだけ担当させてもらったクラスの学生さんに、このようにして会えるとは夢にも思わなかった。
 この3月に卒業したNm君に、あの頃のことやその後のことを聞く。立派な企業への就職を目前に控えながら、目標を達成するために勉強を続けているという話に感心した。やくざな生き方をしてきた自分には、まぶしくさえある。
 驚いたのは、ラジオを聴く人ということだった。私たちのようなBCLの世代にも通じる「ラジオのファン」なのだ。単に番組のファンと言うのではなく、ラジオ文化そのものへの意識の高い人なのである。私のラジオコレクションの継承者はこの人であると勝手に決定。会う前は若い人と何をしゃべったらよいのだろうという思いもないではなかったのだが、その点は見事にクリアし、楽しい時間を過ごさせてもらった。
 教室の中の小さな記憶の数々を、増幅させてはつなぎ合わせる。そうすることによって、私がそのとき間違いなくひとりの教員としてあったということを確かめていく。約束を交わす携帯メールは、春色のエアメールである。