季節はずれの桜の話

 その学校の正門は表の大きな通りよりも少し高いところにあって、わずかなスロープが造られていた。その斜面には、滑り止めなのだろう、ドーナッツ状のくぼみが規則的に施されていた。
 正門の脇には何本ものソメイヨシノが植えられていて、季節になれば桜吹雪が舞い上がり、小さな花びらはそのくぼみに姿をとどめていく。しばらくすると、正門へと続く短いスロープは、いくつもの桜色の輪を配したようになるのだった。
 私はその学校のある街に、新米教員として1年、年を取った大学院生として2年通った。花の散る頃には、その桜色の輪の並ぶさまを見ようと、少し遠回りをしてその学校の前の道を選んでみたりもした。
 紺色の制服の胸に桜をかたどった白い徽章を着けた少女たちは、門を出るときに振り返って一礼する。桜吹雪の中、くるりくるりと舞うその姿がまぶしかった。