マサコ

 昼前から番町で家庭教師。いったん帰宅後、父の墓参に。長い休みの最後は、なかなかに忙しい一日だった。
 夜、夕飯を済ませて明日の教材研究などしているとK君よりメール。下北沢のジャズ喫茶マサコが明日を最後に休業すると知ったので、これから出かけてくるとのことだった。
 下北沢は私のホームグラウンドというわけではないが、芝居好きのK君に連れられてたびたび訪れた街だった。小田急線の線路の近く、細い通りの角に落ち着いたたたずまいを見せるその店にも、幾度となく訪ねて行った。
 暗い照明も低い天井も硬い椅子も、ホットコーラやあんトーストといったメニューも懐かしい。最後に行ったときは一人。頼んだのはホワイトのハイボールだったか。
 近々、下北沢は「再開発」によって生まれ変わるのだという。確かに防災の問題もあり、郷愁だけで街の変化を食い止めようとしても無理なのかも知れないが、たくさんのクルマを通して背の高いショッピングセンターを建てることだけが「開発」なのだろうか。
 この街を愛しこの町に集う人々にとって、マサコの休業はきわめて象徴的な出来事と言えるだろう。K君が店内から送って来てくれたメールによれば、今夜は大盛況とのこと。僕には明日出かけることもかなわないかも知れないが、この店の懐かしい風景を思い出して過ごしてみたい。