velar の fricative

 モンゴル語にはキリル文字表記では《X》で表される音がある。チンギスハーンはジンギスカンと呼ばれることもあるが、ハーンの《ハ》とカンの《カ》は同じ音であり、つまりはこの《X》で表される音なのである。
 「velar の fricative ですね」
 主任教授の小澤重男先生はこうおっしゃった。軟口蓋摩擦音。IPAで表せば[x]だ。
 ちなみに、モンゴル語には歯茎側面摩擦音(alveolar lateral fricative)というのもあって、無声音は[ɬ]、有声音は[ɮ]で表される。竹林滋先生の一般音声学の時間に、隣に座っていたK君が指名され、他学科の大勢の学生の前で見本を示させられたことをよく覚えている。
 のどの奥の方に血豆ができ、それがつぶれたあとが気になってしかたない。昨晩、少し酒を飲んだらその部分が腫れてしまったような気がするので、今日の午後になって近所の医院を訪ねた。
 「軟口蓋の左に違和感があるのですが」
 軟口蓋、soft palate、velum。これから派生したのが velar。 音声学をかじったことが耳鼻咽喉科でちょっと役に立った。