うたびとの生涯を思う

 番町での家庭教師を終えたのが午後8時。クルマに乗り込むと、ラジオのチューニングを急いで1350kHzに合わせた。RCCで「永遠の歌人・村下孝蔵〜10年目の同窓会」 が放送されているはずなのだ。女子大通りを北上するうちに、大きな雑音に紛れて西田篤史さんの声が聞こえてきた。それに続いて村下さんの歌声も。
 今日は村下孝蔵さんの10回目のご命日にあたる。RCCではそれに合わせた特別番組を放送したのだった。昼にインターネットでそのことを知り、カーラジオの感度のよいことに期待を寄せていた。正味にすれば数十分のことだが、東京にいても広島の放送をリアルタイムに聴くことができた。
 村下さんの曲を聴き始めたのは高校時代だった。お小遣いをためてはレコードやCDを買い求めてはいたものの、どういうわけかコンサートに行くチャンスのないまま何年もを過ごしていた。ようやく少しばかりお金の自由もきき始めたことだし、今年こそは恒例の七夕コンサートに出かけよう。そう決めた矢先に飛び込んできた悲しい知らせだったのだ。10年前の今日のことは今も忘れることができない。
 今日は、今も歌い継がれる数々の曲に耳を傾けながら、46年の生涯を駆け抜けるように生きた村下さんのことを追憶したいと思う。