料理人の姿に学ぶ

 夕刻、麹町の「お川」へ。この店が練馬にあった頃、近くに私も2年ほど住んでいた。ある晩、夕飯を食べる軽い気持ちで入ったところ、一品一品の味の確かさや仕事ぶりの見事さばかりでなく、カウンターの向こうで駄洒落を連発しながらも客への気配りを間違えないご主人の背筋のピンと伸びたところにただならぬものを感じ、以来何度も訪れることになったのだった。もっとも、それは財布にたびたびのピンチを招く結果となったのだが。
 ご主人は新橋の名料亭「金田中」で修行を積まれたとうかがっている。この先、よほど良いことか悪いことをしない限り「金田中」の常連にはなれそうもないのだが、この店とご主人に出会い、名料亭の技をうかがい知ることができたことは実に幸せなことだったと思う。
 今回は実に1年2か月ぶりの訪問。イキがっていた30代の若僧だった頃も、平気で1年も間を空けてしまうようになってからも、いつも変わらぬ様子で迎えてもらえる。今夜も美味、滋味、珍味と取り揃えてもらった。
 ご主人は、体調を維持するため節制を求められているとのことだったが、どうかいつまでもお元気で暖簾を守ってください。私もせいぜい顔を出すよう努めさせてもらいます。