ランラン、ラジオはQR

 昼食を済ませて講師控室に戻ると、珍しくテレビがついていた。ソファーに座って見てみると、三島由紀夫が割腹直前に市ヶ谷の自衛隊で演説している場面が映し出されていた。やがて、その現場にいち早く駆けつけた文化放送元記者の西山弘道氏がインタビューを受けている様子に切り替わった。三島の最後の演説を録音できたのは文化放送だけなのだそうだ。竹竿の先にマイクを括り付けて声を拾ったのだという。
 ふと、別のソファーでテレビをご覧の先生に視線を移して驚いた。テレビの画面に映っている西山弘道氏その人ではないか。同じ大学に出講なさっているとは、今日の今日まで知らなかった。と言うよりも、幾度もお見かけする方ではあったが、その方が西山弘道氏であるとは、今日の今日まで知らなかった。帰宅してネットで調べてみると、西山氏は文化放送を退職されてからは政治評論のかたわら、いくつかの大学で教壇に立っていらっしゃるとのことだ。
 今ではおよそTBSラジオしか聴かなくなってしまった私だが、20年ほど前は文化放送以外にダイヤルを合わせない毎日を過ごしていた。西山弘道氏や白井静雄氏が読まれるニュースが大好きで、ラジオに出る方は声がいいなあといつも感心していたものだった。しかし、そこはラジオ。お声はよくうかがっていたが、さすがにお顔までは存じ上げなかった。「ファンでした」とか何とか言って声をかけさせてもらおうか、ことと次第ではQRソングも歌わせてもらおうかとひどくミーハーなことも一瞬考えたが、ここはぐっと我慢。次の機会に、呼吸を整えてからと決めた。