本が好きだということ

 昨日閲覧の許可を得た資料には、図書館の蔵書にふさわしく表紙や背中にラベルが貼られていた。それはそれで当たり前のことなのだろうが、少々味気ないような思いもしてしまう。
 憧れの職業はいくつもあったが、図書館の司書にはなれないと思い早々とあきらめた。本の箱やカバーや帯などを捨てたり、本のあちこちに機械的にハンコをおしたりラベルを貼ったりすることは、僕にはできない仕事だと思ったのだ。
 幼い頃に住んでいた家の隣りのおばさんは、お茶だかお花だかをたしなむ人だったが、その分野の高価な専門書を読み終えるとゴミに出してしまう人だった。当時でも数千円の値で売られていた豪華な書物を無造作に捨ててしまうのだ。ゴミの日。紐でくくられて出された何冊もの本を眺めながら、なぜだかかわいそうでならなかったことを思い出す。
 研究者にとって、資料をどのようにしまうかというのは大きなテーマですね。------亡くなった伊藤先生のことばだ。捨てるに捨てられぬ本の山に埋もれながら、遅々として進まぬ発表の準備は続く。