何を隠そう

 昨夜は楽しかった。主役への連絡が不徹底なまま始まったささやかな送別会、M君が後輩だと思って横柄な物言いを続けていたが実際のところ彼は何歳なのだろうというのが、彼の到着を待つ僕らの大問題となった。
「僕が2年になったとき、サークルの新入生の中に奴はいたぞ。」
「でも、彼は学生時代から海員免許を持ってたよ。」
「ってことは、大学に入る前に社会人としてのキャリアがあったりして。」
「どうする。これまでの分、全部さかのぼって謝らなきゃならないぞ。」
 M君の到着後ずいぶんたって、出版社勤務のK君が絶妙のタイミングで年齢を聞き出した。よかった。2年後の早生まれだった。だからといってぞんざいな口をきいていいわけではないのだが。
 聞けば、他社から譲渡を受けたえびの養殖プラントの仕事でマレーシアへ赴任する3人のうちの1人とのこと。2年ほどとの話だが、以前モザンビークへ赴任したときには、ずるずるとずいぶん長くいることになったのではなかったか。仕事の成功と無事の帰還を願う。話のついでに、ずいぶん前の国際電話はどうやってかけたのかを尋ねてみたところ、船上の無線機からKDDの無線局につなぎ、口頭で電話番号を伝え、その無線局が僕の家にかけてきたというしくみだったそうだ。
 「そんな電話のこと、よく覚えてましたね」と驚かれたが、何を隠そうこの私、忘れてしまったこと以外はすべて覚えている。同様に、知らないこと以外はどんなことでも知っている。こんなことを言っても、びっくりしたり感心したりしてくれるのは、幼稚園児くらいかしら。あるいは接客業のお嬢さんか。もっとも、こちらは「お愛想」というヤツだが。