憧憬としての坂道

 高等学校以来の友人であるMi君は麻布の生まれだという。幼い頃の思い出に「ニコラス」という有名なピザハウスの厨房から流れてくる匂いがあると聞き、ちょっぴりうらやましい。もっとうらやましいのは、その匂いが漂っていたのが坂を上がったところにある公園だったという話だ。
 私の生まれ育った足立区には坂らしい坂がない。最も標高の高い地点が荒川(かつての荒川放水路)の人工堤防の上で、海抜10メートルから15メートル程度というのだから、とにかくなだらかななだらかな土地なのだ。
 坂道がうらやましいというのもおかしな話だが、奇妙なほどに坂道に「まち」を感じてしまうのも事実だ。昨日はMi君の育った「まち」を歩いてみたが、自分の記憶でもないというのに、その断片をつなぎ合わせたり隙間を埋めたりすることが楽しかった。今度は一緒に歩きましょう。
 今日の1枚は狸穴坂。