camellia in full bloom

 K君と東京の坂を巡る。今年は麻布周辺に繰り出した。六本木ミッドタウンを振り出しに、檜坂、氷川坂、転坂、南部坂。六本木一丁目の駅上に出て、行合坂、落合坂、三年坂、稲荷坂。ホテルオークラ前に上がって、霊南坂、榎坂、潮見坂、江戸見坂。さらに飯倉片町まで足を伸ばし、狸穴坂、鼠坂、植木坂。
 ざっと20キロ2万歩を歩き、古くからの家並みが次々に姿を消していることを肌で知る。古い木造家屋はもちろんのこと、60年代に建てられた大きなマンションまでもがすでに廃屋となっている。坂道もまた埋め立てられ均され、その佇まいは取り戻しようもない。もはや地形そのものも人造物に成り下がろうとしているのだ。
 この「まち」をどうするつもりだ。東京の東北部を歩いていたときには思いもよらなかったことが思われてくる。憤りに似た感情はやがて大きな悲しみとなり、こころの隅に深い澱みとなって動かない。
 今日の1枚は、落合坂を緩やかに下った先の風景。今の麻布台、昔の麻布我善坊町の辺りで撮ったものだ。玄関のドアに貼られた板には「立入厳禁。巡回警備実施中」とあり、再開発のディベロッパーの社名が記されている。主のない家の軒先で、牡丹が静かに咲いていた。