街は今、輝いて

 清水由貴子という人があのようにして亡くなったことの衝撃は大きかった。デビュー曲の「お元気ですか」をギターを抱えて歌っていた姿をよく覚えている。当時、私は12歳だったが、この歌はリアルタイムに覚えてしまったようだ。ニュースやワイドショーで彼女の歌声が流れ始め、編集されて途中で終わってしまっても、頭の中で最後まで歌い続けることができたのには自分でも驚いた。
 「お元気ですか、幸せですか」と大切な人を思いやる歌を優しく語りかけるように歌っていた人が、その思いや優しさに押しつぶされるように自ら命を絶ってしまったことを思うとき、生きることの辛さや厳しさを受け止めることの困難をあらためて考えずにはいられない。
 テレビの連続ドラマで「噺家のおかみさん」を演じていた頃は、どういうわけだかそれを毎日のように見ていて、役柄と現実がごっちゃになり、本当に落語家と結婚したように錯覚してしまったこともあった。欽ちゃんバンドでキーボードを弾く姿や、ヤクルトのコマーシャルで元気なお母さんを演じていた姿も懐かしい。ファンというわけでもなかったが、いつの間にか記憶に刻み込まれている存在だったのだろう。
 パソコンのハードディスクを整理していたら、「三和」というスーパーマーケットのイメージソング「サンワ・マイ・フレンド」のファイルが見つかった。文化放送をよく聴いていた頃、コマーシャルで流れるのを耳にするうちに、そのスーパーには一度も行ったことがないにもかかわらず覚えてしまった曲なのだが、このスーパーのウェブサイトで調べてみたところ、清水由貴子さんが歌っていることを知ったのだった。そのサイトからは音楽ファイルも容易にダウンロードできるようになっていた(現在もそうなっている)ので、そのときにハードディスクに収めていたようだ。
 ファイルを再生して久しぶりに聴いてみたところ、透明感のある声はまさに彼女のものだと感じられた。抑え気味の発声と伸びやかな裏声のバランスが見事で、鼻濁音の確かさと、サ行とタ行の特に「ス」と「ツ」の音の美しさには感心してしまう。こんなに歌の上手い人だったんだ。思いの整理のつかぬまま、スーパーのコマーシャルソングを聴きながら、パソコンの前でひとり落涙する。