荷風の愛した町を巡って

 今日はずいぶん歩いた。テーマは「荷風」。K君と11時に浅草駅前で待ち合わせ、まずは東武電車で東向島(旧玉ノ井)駅へ向かい、戦前の銘酒屋街・戦後のカフェー街の跡をひと巡り。白鬚神社から隅田川に出て桜橋のたもとまで。言問団子で休んだあとは、浅草駅から地下鉄を乗り継ぎ飯田橋駅へ。小石川の牛坂、安藤坂、善光寺坂、六角坂、富坂と巡って、最後は荷風の生家があったとされるあたりまで。
 玉ノ井では「にわか建築評論家」となり、かつての銘酒屋・カフェーの建物を探し歩いた。現在も住まいとして使われている家々は、壁にモルタルを重ねて塗ったり化粧板を貼ったりしているが、しばらくするうちに「見る目」ができてくる。カメラを向けたりするわけにはいかないが、往時に思いをはせながら記憶に刻みつけようと努めた。
 漢詩に「江北」や「江南」ということばが現れることを荷風の『濹東奇譚』になぞらえて説明してくださったのは、高校1年のときに漢文を教えてくださった「豊」という字ひと文字で「ぶんの」とおっしゃる先生だった。いやはや、実になんともよい教育を受けてきたものだ。