L⇔R

 授業で扱っているクロスワードには、答えのひとつに clown という語が出てくるのだが、この単語を見るたびに恩師を思い出す。
 若林先生はクラウンという中学校用の検定教科書の代表著作者だった。ある日のゼミのときだったろうか、教科書編纂の裏話としてこんなことを教えてくださった。
 教科書の名前をそろそろ変えてもよいのではないかと思っているのだが、出版社がどうしても首を縦に振らない。特に営業の担当者が、クラウンという名前を捨てるわけにはいかないと主張しているとのこと。そこで、先生は「ならば『クラウン』のRをLに変えてもよいか。カタカナにすれば同じ『クラウン』だろう」と迫ったのだという。
 どこまで本当の話か今となっては確かめようもないのだが、王冠を捨てて道化になるというこの話、いつまでも忘れられない。こんな乱暴を口にされるのも恩師の魅力のひとつであった。