花、花、花、花

 昼過ぎに東宝。前売り券を買い求めるついでに、13時半からの花組公演『復活:恋が終わり、愛が残った/カノン:Our Melody』を見る。何を見ても「見ればはまる」などと言っているのでは、いよいよどうにもしようのないことになってしまうわけだが、実際よかったのだから仕方がない。
 19世紀末の帝政ロシアを舞台にしたミュージカル『復活』は、トルストイの同名作品を下敷きにしたもの。テーマとして掲げられる「愛のかたち」は、浅薄な安定を求めることなく、観る者を幾度も裏切り続けついに止揚する。引きずり込まれるように落涙した。
 華やかなのは当たり前のショーも実に華やか。男役のエトワールは(何度でも言うが)まったく好まず、パレードに来ていくらかおとなしいトーンになるのもどうかと思ったが、全体としては娘役の美しさもきちんと押し出されていて好感が持てた。
 主演の蘭寿とむを舞台で見るのは初めてだったが、スカイステージなどでは不安に感じてしまう発声も、実は劇場に向いているのかと感じた。娘1の蘭乃はなも、芝居では少女と娼婦とを意欲的に演じ分け、見事な成長ぶりを示していた。
 男役は、2番手の壮一帆・3番手の愛音羽麗以下、全体に安定感があり、どうして集客が弱いのか疑問に思うほど。悠真倫は、きちんとキャラクターを立てた役作りでアドリブにも強く、息の長い役者になってくれることを期待したい。
 娘役では、ショーでパレード前の「ダブル・デュエット」の1人に加えられ、芝居でもよい役どころを得ていた実咲凜音の存在感が抜群。芝居で好演していた華耀きらり、月野姫花の名も挙げておきたい。月野さんはこの公演で卒業とのことでなんとも残念。
 最近の花組にはあまり興味がなかったのだが、先日のスカイステージで、たまたま悠真倫・桜一花・蘭乃はなが華形ひかるの進行で宝塚への「偏愛」を語り合う様子を見た。また、別の番組では実咲凜音が新人公演にかける思いを熱く語るのを聞いた。これらを通じて、演じる人々への興味が湧いてきたことも、今日の舞台を観る気持ちを支えてくれていたのかも知れない。
 商業演劇とひとくくりにすることはたやすいが、そこには、この華やかな舞台を愛し、ここで演じることへの情熱を燃やし続ける人の姿がある。月組では奇妙な人事が発表されファンの間では議論が喧しいけれど、劇団の運営が、ファンはもとより、演じる人々の熱情を冷ますことのないものであってもらいたいと心から願う。