教わったように教える

 新年度の授業も今日で一巡り。金曜日3限目のライティングの時間は20人という理想的なクラスサイズだ。
 畏友の「ライティングの基本は文字」ということばに励まされ、今日はガイダンスのあと文字に関するクイズをいくつか出してみた。
 まずは、文字の発生について。

問1:ローマ文字の大文字と小文字はどのように生まれたのでしょう。


 答え: ア.大文字→小文字(大文字から小文字が生み出された)
     イ.小文字→大文字(小文字から大文字が生み出された)
     ウ.同時(大文字と小文字は同時につくられた)

 正しいのは《ア》だが、正答率は約20%だった。このような「考えたこともないこと」というのは、いきなりたずねられると面食らうものなのだろう。
 次は、問1の正答をふまえて D と d のことを考えさせてみる。

問2:D と d の文字の形を見てみましょう。大文字では右を向いていた「お腹」が、小文字では左を向いているのはどうしてでしょうか。

 なかなか筋のよい推理をする学生もいる。ひとりの学生の考えた「お腹が重たくて転んだ」というのは、ほぼ正解と言ってよいような気もする。パラパラマンガのように、Dがお腹をこちらに向けて反対側に倒れるさまを描いた学生もいて、なかなか楽しかった。
 最後は、ABC Song について。これは、クイズというよりはアンケートだろうか。

問3:あなたの知っている ABC Song では、文字は次のどちらの並び方をしていましたか。
答え: ア.A B C D E F G
      H I J K L M N O P
      Q R S T U V
      W X Y Z
    イ.A B C D E F G
      H I J K L M N
      O P Q R S T U
      V W X Y Z

 この問いかけに《ア》と答えた学生はひとりだけだった。日本ではどちらも歌われているようだが、この教室では少数派の《ア》の方が実は正統的なものだということを rhyme や syllable というキーワードを用いて説明した。この歌は、カタカナで書けば「エレメノピー」となる2行目の終わりがポイントだ。英語を学び始めの子どもたちは(いや、おとなでも)ここが上手く歌えたらうれしいのではないか。そんなこともひとこと。
 最後は、AからZに行き、ZからAに戻るという「まぼろしの」New ABC Song を披露。中学1年のときに教えてもらったこの歌を、今でもきっちりと覚えている。服部公一先生が作曲されたこの歌は「現場の」教員たちの反発にあってすぐに教科書から消えてしまったのだが、ZからAまでさかのぼって言えるなんて、楽しくないか、便利ではないかと問いかけてみた。
 小学校の仕事も始めたのかと言われそうだが、これは大学1年生のライティングの授業。教職を志す学生が多いこともあり、あえてこのようなことを扱ってみた。
 今日の授業に関しては、私は「教わったように」教えている。「教わったように教えるな」というのは恩師の実に重いことばだが、誤解を覚悟で言うならば、このことばを定式化してしまう姿勢には、他の授業をステロータイプ化しようとする嫌味のようなものと同時にある種の「敗北主義」を感じるのである。私たちには、教職を志す人たちを前にして「教わったように教えてもらいたい」と願う瞬間があってもよいはずだ。そして、その願いを踏まえたうえで乗り越え、文字通り「教わったように教えない」という次代の教師が現れることこそを期待したいのである。
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