世界は友だち

♪ そうさ そうだよ 世界は友だち
 ある年代以上の人であれば、この歌の流れるテレビコマーシャルを覚えているのではないか。これは、ドラッグストアの頭髪ケア用品の棚にあって、特にその最下部あたりで抜群の存在感を示している「加美乃素A」のコマーシャルソングだ。
 加美乃素は養毛剤の名前。製造元の加美乃素本舗は神戸の会社である。同社が養毛剤の発売したのは1932(昭和7)年だが、それは全世界にさきがけたものであった。現在では、ヨーロッパや東南アジアなど世界の各地で販売されている。
 毛髪の一本一本が細いからさびしく見える。そのような言い訳を長年にわたって続けてきたけれど、それが説得力を失いつつあることは、他ならぬ自分自身がもっともよく理解しているところだ。今となれば、二十歳の誕生日に「薬用紫電改」と「シデンブラシ」をセットでプレゼントしてくれた母の先見の明を讃えようとする余裕もないではないが、そのときにはその封も開けずに抵抗するということしかできなかったのである。
 ここへ来て急にあわてたというわけでは決してなく、これまでもさまざまのものを試してきたのだけれど、この際「加美乃素A」を使ってみることにした。それは、この会社の製品の数千円分のバーコード(養毛剤だけに?)を集めて送ると、抽選で大劇場での貸切公演に招待してもらえるとのことを知ったからだ。
 加美乃素と宝塚の関係は長く深い。社長さんのお嬢さんがジェンヌだったことから、劇団の生徒をイメージキャラクターに起用し、全国公演に協賛したり、貸切公演を開催したりしている。最近は大劇場に緞帳も寄贈したと聞く。
 どのみち使う養毛剤なら、この際「加美乃素」ということだ。頭髪が増え、観劇のチャンスが得られ、会社の売り上げが伸び、劇団も潤う。誰も損をしないどころか、みんながそろって得をする。ああ、こんなによいことがあるだろうか。