double quotation
畏友のツイートに触発されて、国立教育政策研究所*1が平成22年11月に実施した英語の「特定の課題に関する調査」*2の集計結果を見る。中学校の3年生を対象に《「書くこと」の基礎的・基本的な知識・技能》と《まとまりのある文章を書くこと》についてペーパーテストおよび質問紙を用いて調査したものだそうで、集計結果はこの1月に発表されており、PDFファイルがダウンロードできる*3。
集計結果の13ページには、調査問題が掲載されている。問題[1]は1〜3の小問に分かれており、その1は以下の通りである。なお、原資料では英文の文字は手書き文字に似たフォントを用いて印刷されていることを附記しておく。
1 次の(1)〜(3)の各文を、文字や符号、語と語の区切りなどに注意して書き写しなさい。
(1) You must study hard.
(2) Is that boy Saki's brother?
(3) Naoki said, "This cake is great!"
次のページには分析と考察が記されており、(3)の問いに対する答えのうち「文字や符号の形に正確さを欠くところがあるもの」の割合が30.4%であるとしたうえで、その具体例として、
- 「a」と「u」の判別が困難なもの
- 「“」や「”」の向きがあいまいなもの
を挙げている。
さらに集計結果を見ると、57ページには「大文字・小文字の書き分けその他文字の筆記が不正確なもの」として、6の番号が振られた答えの例が示されており、これには以下の説明が添えられている。
与えられた英文を書き写しているが,文中の符号「“」「”」の形が不適切であり,文末の符号「!」が欠落している。
ここへ来て困ってしまった。答えの例で「“」、つまり開く方の引用符が丸く囲まれているのだが、その意味がわからないのである。この符号の形が不正確ということなのだろうか。ならば、ここに示された引用符の何を指して不正確とするのかを問いたい。
私は、引用符の向きや形にはずっとこだわってきた。中学校や高等学校で授業を担当していた頃からずっと、閉じる方の引用符は「カンマやアポストロフィーと同じ形」であり、アラビア数字の「9」をイメージするように教えている。一方、開く方の引用符は、形はそのままに「180度回転させたもの」であり、アラビア数字の「6」をイメージするよう注意を促している。
しかしそうは言っても、こういったことは、ワープロで文書を作成したりポスターなどをつくったりする際、デザインとして符号の形の正確さが求められる場合に問題となることであり、手で書く場合には縦方向にチョンチョンと印をつければコミュニケーション上の問題は生じないとも伝えている。学生にとって身近な例としては、レポートや論文をワープロで作成するときや、サークルやゼミで揃いのTシャツやジャージの背中に文字を入れるときには十分に注意するように言っている。また、フォントによっては引用符の「向き」が区別されないものがあることも、実例を示して説明している。
話を戻そう。引用符の形について、何をもって正確とし不正確とするのか。そもそもの話をするならば、この調査の集計結果において、引用符を手で書く場合にどのような形にすれば「正確」とされるのか「手書き」で示した箇所はない。文字や符号を手で書くことについて調査しようとするならば、当然「手書き」の範例が必要とされるのではないかと思うのだが、どうだろう。
さらに、印刷されたものを手で書き写すという課題は、純粋に「書く」力を確かめるものではないのではないかということも問うておきたい。そこには印刷されたものを「読む」という力が求められているのではないか。いかに「手書き」の文字に似せた書体であっても、それはあくまでも印刷された文字なのだ。
細かいことをグダグダと思われるかも知れないが、この調査そのものが「細かいこと」を問題としているのだ。ならば、とことん細かくやらなければ、画竜点睛を欠くどころか、まったく意味がなくなってしまうと思う。