大階段

 成績処理を終えたのは朝9時過ぎだった。成績伝票は郵送するきまりになっているので、10時前には近所の「集配局」へ。どうにか許してもらえる期限内に送ることができたか。
 ほんの少しだけ仮眠をとり、午後は東宝の星組公演『オーシャンズ11』に。星組を見るのは、香寿たつきと渚あきのトップお披露目公演だった『花の業平/サザンクロス・レビューⅡ』以来というのだから、ずいぶん古い話である。もう特定のファンもいないし、この際だから東宝の公演は全部見てしまおうかという気分で、今年最初のタカラヅカとなった。
 ミュージカル『オーシャンズ11』は、2001年のハリウッド映画を小池修一郎が舞台化したものだが、スピード感と宝塚独特の華やかさにあふれ、とにかく楽しいステージだった。今、星組は一番の集客力を持つ組なのだそうだ。柚希礼音(役名:ダニー・オーシャン)も夢咲ねね(同:テス・オーシャン)も舞台で見るのは初めてだったが、2人ともバランスよく力をつけたトップ・スターだと感じた。この組の人気のほどもよくわかるというもの。
 注目しておきたいのは脇を固める2番手以下の生徒で、特にテリー・ベネディクト役の紅ゆずるとクィーン・ダイアナ役の白華れみは秀逸の演技を見せていた。紅は、いくらか歌が不安定に聞こえるところもあるのだが、それすらも魅力にしてしまう引きの強さを感じた。また、白華はお嬢さん然としたたたずまいを脱して「女役」としての凄みをも感じさせる存在となっている。
 ステージのMCと歌手を務める礼真琴(役名:マイク)と、歌手の3ジュエルズこと花愛瑞穂(役名:ルビー)・音花ゆり(同:サファイア)・白妙なつ(同:エメラルド)は、いわば「歌う狂言回し」で、ほぼ出ずっぱりだ。いわゆる「路線」とは一線を画す実力派の生徒たち、ことに娘役がこのように重用されることをうれしく思う。
 専科の未沙のえる、組長の英真なおきといった人たちも、重厚さと軽妙さと兼ね備えたベテランならではの存在感を示していた。未沙のえるさんはこの公演を最後に退団することが発表されている。パレードの際に沸き起こるひときわ大きな拍手に、客席で手を叩きながらもこみあげるものがあった。
 パレードと言えば、特に今回の配役を取り立てて云々するものではないけれど、男役のエトワールにはひどくがっかりする。宝塚というところは何ごとも男役を中心に回るところがあるが、エトワールだけはどうか新進の娘役をあててもらいたいと願う。
 さらにパレードのことをもうひとつ。柚希礼音の「お辞儀」が素晴らしい。頭を下げるたびに背中に付けた羽根の「しっぽ」を頭の先までめくれさせ、姿勢を戻すごとにその「しっぽ」を背中の後ろへ振り戻す。これは、花組トップ時代の真矢みきを彷彿とさせる、まさに渾身のパフォーマンスだ。なんとも勢いのあるトップ・スターである。