バラの垣根

 その学園の制服のベルトには、少し変わった意匠のバックルが付いていた。ずいぶん前になるが、それはバラの垣根をイメージしたものだと何かで読んだ記憶がある。明治の頃、その学園の周囲にはバラの垣根がめぐらされており、それをモチーフにデザインしたものだと言うのだ。
 ところがこれはどうやら間違いらしく、このバックルの意匠は五弁の桜の花びらを連ねたものというのが真相のようだ。何をどう読み間違えたのか。何かのついでに記憶を取り違えてしまったのか。正しいことを知ったのだから、それでよしとすればよいのだが、長くあたためていた記憶が打ち消されてしまうことが少しさびしくもある。
 10月2日。今年もこの日が来て、年に一度のメールをやりとりする。生活の現実の中に、懐かしい記憶を一瞬だけ取り戻す。