かにかくに

 かにかくに。いつだったか、刑事もののドラマを見ていたらこんな名前の店が出てきた。祇園は恋し、吉井勇だねなどと言うと、一緒にテレビを見ていた母がポツリポツリとことばを継いでうたを完成させた。

 かにかくに祇園はこひし寝るときも枕のしたを水のながるる

 吉井勇の歌集を岩波文庫で買い求めたのは最初の女子校に勤めている頃だった。私の家にこういう「風土」のあることは幸いだったと思う。もっとも、兄や姉がこのような世界を好むかどうかはわからない。
 で、私は京都にいる。明日、会の理事会と研究例会が市内で予定されているので、いわゆる前乗りをしてみた。ひとりの京都は久しぶりだ。
 昨晩、芝居のあと長話をしてしまったもので帰宅がずいぶん遅くなり、今朝はほとんど寝ないまま新幹線に乗り込んだ。熟睡、爆睡。ふと目が覚めると、電車がホームに停まろうとしている。駅名表示は見えないが、どうやら気配が京都である。慌てて棚の荷物を下ろして、降りる人たちの列に連なる。間に合ってよかった。
 京都駅に着いたのが正午近く。荷物だけ置かせてもらおうと宿に向かうと、10分ほど待てば部屋を用意してくれるとのこと。あとのことを考えればその方がずっと楽だし、待たせてもらうことにした。ごく普通のビジネスホテルだが、ロビーのパソコンにはレーザープリンタが接続されており、ちょっとしたビジネスセンターになっている。出力は1枚10円とのこと。会議資料のコピーに行かなくてすみそうだ。
 部屋に荷物を置いて本山へ。御遠忌法要のために特設された屋根や階段が撤去されつつある。お土産物の売場はずいぶん縮小されており、まるで商売気のないことにあきれながらそれを微笑ましくすら思ってしまう。
 おまいりは阿弥陀堂から御影堂の順に。御影堂は椅子が取り払われ、その広さがあらためて思われる。だが、真ん前に進み、ペタンと腰を下ろし、手を合わせてお念仏を称えれば、もう広さは感じない。このスイッチがいつもおもしろい。
 参拝接待所ギャラリーの展示は「非戦と平等の源流をたずねて」がテーマ。高木顕明師や竹中彰元師らのことをあらためて読む。
 お土産にお念珠をと思い、烏丸通沿いの専門店へ。選んでいるとお店の人が声をかけてくれたが、どうにも話がすれ違う。お寺さんですよねと言われて、はじめてその理由がわかった。あれこれ話をすると、ご住職のご紹介ならばとおまけしてくれた。ありがたい。
 宿に戻って、明日の理事会に向けて議事資料をまとめ、交通費補助の出金伝票を切る。ビジネスホテルの小部屋は、まさに移動事務局。夜にならぬうちに終えたいとの願いとともに始めたが、加速度的に仕事は進み、ありがたいことにその願いを遂げることができた。
 小雨の中を祇園へ。何度か連れてきてもらったことのあるおばんざいの店にひとりで行ってみたい。見つけられなかったらどうしようと思っていたのだが、いつの間にか道を覚えていたようだ。まったく迷わずに無事到着。
 お医者さんらしき老紳士と作務衣姿のお坊さんに挟まれて時を過ごす。おいしいものをたんといただいた。心ゆたかに力身にみつ。ごちそうさま。
 明日は昼前から理事会。午後は例会で2本の発表。