真珠の小箱

 花登筐。この名を知らない人も増えてきた。細うで繁盛記、どてらい男、あかんたれ。これらのテレビドラマの作者であると聞けばわかるという人もいるだろうか。それでも名前の読み方を知らないという人はいるかも知れない。
 先日、移動中にラジオを聞いていたら、ある人がこの人のことをしきりに「はなとこばと」さんと言うもので、困ったことだと思った。その人は生前の花登筐氏と親交があったようなので、余計にそう思った。
 会に加えてもらったばかりの頃、外山正一を「とやましょういち」と言ってしまったようで、帰り道に指摘を受けたことを思い出す。これを「とやままさかず」と読まなければならないことなど百も承知であったが、緊張すると思いもしないことを口走ったりするようだ。
 君はまだ若いし、これからの人だから言うけれど、名前の読み方ひとつで、その先まったく相手にされなくなることもあるのだから、よくよく注意しなさいと言われた。いや、言っていただいたのだ。その時は顔から火の出るような思いがしたけれど、この道でやっていくならば人名と書名には特に気をつけなければならないと思うことができたのである。
 ある程度の年齢になると、思い違いや言い間違いを周囲の人たちが注意してくれなくなる。このラジオの人も、そうして放置されているのかも知れない。今や人の思い違いを正す立場ともなったが、いつまでも初舞台の緊張を忘れてはならないと思う。