Brassed Off

 授業時間をやりくりし、いくつかのクラスで映画を見る。今年は久しぶりに1996年のイギリス映画『ブラス!』を選んでみた。原題は Brassed Off。大好きな映画のひとつである。
 この映画に描かれる社会の状況を今の大学生がきちんと理解するのは、相当に困難なことだと思う。サッチャー政権下で産業構造の大転換がくわだてられ全英の炭坑が次々に閉鎖されたこと、そこに働く炭鉱労働者たちが分裂を余儀なくされていくこと、このあたり「『クミアイ』って何?」という今の人たちにはなかなか厳しいところだ。
 この映画の中で私が注目している「どうでもよいこと」がいくつかあるのだが、そのひとつは登場するクルマである。経営者はシトロエン(Citro醇Rn)に乗り、そこに雇われてきた女性はフォルクスワーゲン(Volkswagen)に乗る。そして、労働者が相乗りするのはボクスホール(Vauxhall)だ。ボクスホールはGMに買収され、オペルのマークだけ変えて売っているような状態だが、それでもイギリスにおける「大衆車の」れっきとしたブランドなのである。本当にどうでもよいことなのだが、1996年にこの映画を初めて見たときから、これらのクルマの象徴するものがずうっと気になっている。
 この映画、ハッピーエンドのように見えるけれど、実は労働者の生活とか経済とかコミュニティの維持という部分では何も解決していないことにあとで気付く。ただ、人々の心のうちに灯されたものの存在だけが明日を照らしているのだ。見終わるのは来週だが、学生たちの感想が楽しみである。