通告員

 東京2009アジアユースパラゲームズの競技が始まった。かつての同僚で水泳の指導者でもある友人から連絡をもらい、水泳競技場の英語通告員としてこの大会のお手伝いをさせていただくことになっていたのだが、まさにいよいよ本番である。
 通告員というのは、競技の進行に関するすべてのことがらを放送設備を使って場内に伝えるのが仕事。国内の大会では日本語を用いるのだが、この大会にはアジアの各地から選手・役員が集まっていることから、英語のみで通告の一切を行うことになっている。
 ところが、進行の実際において、ことばというのは中心的な存在でもないようなのだ。と言うのは、たいていのことが音楽で合図されるからなのである。競技の開始、役員の入場・退場、選手の入場、表彰式というふうに音楽が使い分けられており、選手が泳いでいる間の音楽とフィニッシュしたあとすべての選手が水から出るまでの音楽も明確に区別されている。したがって、特に注意深く通告のことばを聞いていなくても選手や役員が戸惑うことはほとんどない。
 そのような中で、会場中の人々が耳を傾けようとするのは、泳ぐ前の全選手の紹介とメダルを受ける選手たちの紹介である。言わばここが聞かせどころなのだけれど、中国、香港、イラン、イラク、カザフスタン、韓国、マレーシア、ミャンマー、台湾、シンガポール、タイと、11の国や地域から集まった選手たちの名前の読み方の難しいことと言ったらないわけで。冷や冷やしながら、なんとか初日の仕事を終えた。
 明日も東京・辰巳の国際水泳場で10時から。各日の通告員は(今日になって知ったのだが)2人おり、交代でその任に当たる。私の英語を聞く/聞かないはともかくとして、アジアの各地から集まった若い世代を応援に来ていただければうれしい。なお、陸上競技は国立霞ヶ丘競技場、車いすテニスは東京体育館、ゴールボールは国立代々木体育館、ボッチャは国立オリンピック記念青少年センターの各会場で開催される。ただ、私の英語を聞きたい人は東京辰巳国際水泳場。くどいか。
 さて、ここまで書いてきたのだが、私は今日の選手たちの様子を一言も書くことができずにいる。実は、見ている余裕がなかったのだ。エントリーの変更、失格のコール、レース結果の照合、プレゼンターの確認。日本語の通告員として何年も関わっていらっしゃる水泳連盟の方が、各所から次々に入ってくる情報を整理しながら、私たちに指示を出してくれる。それも、先に記した音楽を2台のCDプレイヤと出力セレクタを駆使して流しながらである。正直、私たちはその指示についていくのがやっとだった。明日は、少し余裕を持って選手たちのがんばりを見つめたいと思う。