適材適所

 ひょんなことから母校・都立上野高等学校の入学案内を入手。正直のところあまり魅力を感じなかった。
 都立高校の場合、予算の制約もあって、そうそう立派なものを作れないのは理解できるのだが、とにかく情報の量が足りないうえに、その質も低い。手短に言えば、「余白だらけ」であり「無駄だらけ」なのである。
 例えば表紙。全部で8ページしかないというのに、イラストと学校名と電話番号しか載っていないというのはどういうことか。中にある行事や校内風景の写真など、ここに並べてしまって、中にはもっと「読ませる」ものを配置すればよい。
 ただ、卒業生の目で見れば、この学校が過去のいっさいがっさいを切り捨てようとしていることはよく伝わってくる。だいたい、歴史や沿革については「創立80周年を迎えた伝統校」とあるだけなのだから。
 読ませるものの少ない中で目がとまったのは、2人の卒業生と2人の在校生からのメッセージだ。進学校としての飛躍を謳うページに載せられた4つのメッセージは、いずれも「有志制度」の経験とそこから得たものについてのべている。
 これは、学園紛争の時代に生徒会という組織を否定したこの学校に引き継がれるもので、さまざまな行事を成立させるためにその都度有志集団が自主的に組織され、生徒集会がこれを支持した場合には実行委員会として認められ、行事が実現するという不文律である。どのメッセージも、ここではなく行事を紹介するページに載せた方がよかったのではとも思うが、学校の方針と生徒たちの意識が見事に乖離していて興味深い。
 それはそうと、いきなり「平成19年度より3学期制に移行しています」と読ませたところで、何のことだかわかる中学生などいないのではないか。過去があっての今なのだから、長く2学期制で運営して来たことに触れなければ、それは無駄な情報でしかない。しかし、かつては2学期制だったことを知ったとしても、それはもっと無駄な情報なのである。管理職の中には「過去との決別」という大きな命題が常にあって、それがこの無駄な情報を盛り込ませてしまうのだろう。
 ところが、その「過去との決別」のために制定した「標準服」については、大雑把なイラストと「ネクタイ・リボンは3色から選べます」という情報があるだけで、写真の1枚だってないのである。だいたい「3色から選べる」の「3色」というのは何と何と何なのか。それがわからなければ、こんな無駄な情報があるだろうか。
 いずれにせよ、内容的にも表現の面でも、もっともっと読む人の立場に立ったものに改めるべきだと思う。学校を選ぶ中学生たちがどんな情報を求めているかなんて、目の前にいる生徒たちに聞けばすぐにわかることではないか。もっとも、この学校案内が生徒たちとの関わりの薄い何者かによって作られているとか、この学校に生徒と教員の密接な関わりなどもともと存在しないというならば話は別だが。
 私学で学校案内を編集していた頃は本当に楽しかった。あのとき教科主任ではなく広報室次長にでも指名されていたなら、もっと違う生き方をしていたかも知れない。そんなことをつい思ってしまう。