研究する人の姿

 自信たっぷりに研究発表をしたことは一度もない。先人の労苦の跡に出会えば出会うほどに不安が増してくる。自分の調べたことや考えたことの量と質に対する不安である。けれど、自分に先んじて研究を積み重ねてきた人や人々への礼儀ばかりでなく、敬意とか畏怖の念といったものが、研究しようという者を更に一歩前へと進ませるのである。
 月例研究会に臨み、発表者の心的態度を最後まではかりかねた。人の名前、書物の名前、組織の名前、経歴、年代。史的研究の初歩がないがしろにされるとき、あとに続くべきものに何が望まれるだろう。発表することは批判を受けることである。それをはねのけたり受け流したりするならば、その先に何が生み出されるのだろう。
 研究はいつまでも「道半ば」である。こつこつと研究を積み重ね、いのちの尽きるわずかひと月前、人生の最後の研究発表に「中間発表」と名付けた敬愛する先輩のことを憶う。